【映画レビュー:トランス・ワールド】ミニマルな要素とプロットで魅せる秀作

今回は、映画『トランス・ワールド』の感想レビューです。

低予算でここまで出来るのか、と感心させられた意欲作です。絵面は非常にシンプルなのですが、プロットの良さでそれは十分カバーできるんだなと思いました。

前半はネタバレ無しのレビューなので、観る前の参考にしていただけます。

後半はネタバレ有りの感想・考察なので、まだ観ていない方はご注意ください。

映画情報
  • おすすめ度:8/10
  • 原題:『Enter Nowhere』
  • 主演:スコット・イーストウッドなど
  • 監督:ジャック・ヘラー
  • ジャンル:サスペンス
  • 公開:2001年
  • 長さ:98分(1時間28分)

ネタバレなしの感想

まずはあらすじから。

若いカップルがガソリンスタンドで強盗し、女の方であるジョディは店主を撃ち殺してしまいます。

そこで場面は一転。

サマンサ、トム、そしてジョディの3人はそれぞれ森の中で迷子になり、古い小屋に集まります。

互いのことを知らないので疑心暗鬼になりながらも、水と食料が尽きる前に森からの脱出を試みることに。

しかし森はループ構造になっており、どれだけ進んでもまた元のところに戻ってしまい、脱出できません。

そうこうしているうちに、3人は他にも妙なことに気づき始めます。

 

この映画を見てまず驚くのは、絵面が非常に地味なことです。

基本的に舞台は森で、建物も古い小屋+αだけ。つまり、セットにほとんどお金がかかっていません。

さらに、登場人物も非常に少ないです。合計で10人もいませんし、エキストラ的な人物もいません。

こんなにアッサリした映画を観たのは間違いなく初めてでした。

ではこの映画は低予算のしょぼい作品かというと、全くそんなことはありません。

話の展開が非常に面白く、セットがシンプルだとか、登場人物が少ないという点はまったく気になりませんでした。

むしろムダなものがないからこそ、プロットに集中して観ていられたとも言えます。

例えるならば、ミニマリストが必要最小限のものだけで暮らすのと同じです。この映画にも必要最小限のものと人しか出てきません。

一般に、映画はお金をかけた方が楽しくなるイメージがあります。

有名俳優を起用して、ド派手なCGを使えばスケールの大きい、印象的な作品になるでしょう。

本作はそれとは真逆の作品であり、「予算を最小限に絞っても面白い映画は作れる」ことを見事に証明しました。

 

ストーリーが面白いのですが、それについてはネタバレなしの範囲では触れません。

強いていうならば、舞台はただの森であり、孤立した空間という点では『アイデンティティ』に非常に近いです。

抜け出せない空間の中で登場人物はどうやって活路を見出すか。そこを楽しむ作品だと感じました。

 

総合的な評価としては、かなりおすすめの部類です。

全体的に地味であることはむしろプラスに働いていて、欠点には感じませんでした。

ミニマルな要素と練られたプロットで魅せる作品として、本作は非常にユニークです。

もしVODなどで見つけたらぜひ観てみてください。

ネタバレありの感想・考察

注意

以下の感想・考察はネタバレを含みます。ご注意ください。

僕が理解できた限りでストーリーをざっくりまとめてみたいと思います。

中盤までは「これどういうふうに終わるんだろう」と、オチの予想がまったくつきませんでした。「仮想空間に閉じ込められたのか?」と仮説を立てたのですが、どうやらそれも違う。

登場人物たちが閉じ込められたのはファンタジー的な空間でした。

実はジョディたちと後半で登場するハンスの計4人は血縁者であり、バラバラの時代から不思議な力により一同に介したという設定です。観ていくとそのことが分かってきます。

その空間の存在意義とジョディたちの目的は、血縁者の不幸を修正すること。

血縁者は年代が古い順に、ハンス→サマンサ→ジョディ→トム。順に親子関係にあります。

それぞれ人生の中で不幸を背負っています。例えばジョディは強盗をするくらい落ちぶれていましたし、トムも殺人を犯していました。

これらの不幸はハンスが戦死したことに端を発します。ざっくりいうと、もしハンスが生きていればその後の子孫も幸せな人生を歩めたはず…ということです。

舞台となった森はハンスが戦死する予定の場所でした。そこでジョディらがハンスの命を救うことで、未来が書き換えられハッピーエンドというオチ。

 

前半を観るだけではこのオチは予想できず、後半のたたみかけは面白かったです。

「この場所は一体何なのか」
「登場人物たちはなぜここにいるのか」
「どうやったら脱出できるのか」

これらの疑問が上に書いたように解消されていって、最後はスッキリした気持ちで観終わりました。

 

ストーリー上の考察ポイントとしては、冒頭でジョディに殺される店主が気になります。

具体的に描かれることはありませんが、おそらくこの店主が天使のような、負の連鎖を断ち切る案内人だったのだと思います。

つまり、ジョディが店主を撃ち殺したことが「森の空間」の扉を開いたのではないか、ということです。もしかすると、その扉とはレジ横にあった金庫の扉なのかもしれません。

こういう答えのない考察ポイントがあるのも本作の面白いところです。

 

再びまとめると、練られたプロットに大満足の作品でした。

序盤で次々と浮かぶ疑問については、真面目に観ていれば上のように難なく理解できると思います。

個人的には難しすぎず、単純すぎずちょうどいいくらいに感じました。おすすめです。