【映画レビュー:アイデンティティー】そして誰もいなくなった風サスペンス

今回は、映画『アイデンティティー』の感想レビューです。

ミステリ小説のようなストーリーが面白いサスペンスでした。

終盤の展開が見どころで、ネタバレを避けようとすると書けることが少なくなるタイプの作品です。

前半はネタバレ無しのレビューなので、観る前の参考にしていただけます。

後半はネタバレ有りの感想・考察なので、まだ観ていない方はご注意ください。

映画情報
  • おすすめ度:8/10
  • 原題:『Indentity』
  • 主演: ジョン・キューザック
  • 監督: ジェームズ・マンゴールド
  • ジャンル:サスペンス
  • 公開:2003年
  • 長さ:90分(1時間30分)

あらすじ

ひどい雨のため、あたりの道はどこも冠水。

様々な経歴を持つ11人の男女は行き場を失い、一軒のモーテルに集まりました。

夜が明けて雨が止むのを待つ中、11人のうち1人が殺されているのが見つかります。

その後も次々と増える犠牲者。

残された人々は疑心暗鬼になりながらも、犯人を絞り込んでいきます。

総評

本作『アイデンティティー』は、レビューが非常に書きにくい作品です。

ストーリーは基本的にあらすじのとおり。

まんまアガサ・クリスティの『そして誰もいなくなった』風なのが分かると思います。

本作の面白さは終盤の展開に集約されていて、あとはもう実際に観てもらうしかない、というのが正直なところです。

あらすじで面白そうだと思ったら、レビューはあまり読まずに観るのをおすすめします

自分で書いておいてなんですが、なんならこのレビューについても以下は読まなくてもいいと思います。

良かったところ

これで終わりでは寂しいので、まずはネタバレにならない範囲で良いところを書きたいと思います。

本作の何が面白いかというと、上に書いたとおり、終盤のどんでん返しです。

本作の90分は最後の最後のためだけに存在するといっても過言ではありません。

モーテルの様子を描くシーンと並行して、死刑囚についての審議をするシーンも挟まります。

全く関係がなさそうなこの2つのシーンにどんな意味があるのか。

それを考えていくのも面白いポイントです。

良くなかったところ

反対に良くなかったところについて。

結論として、映画の面白さに比べて、良くないところはごく小さなものです。

例えば都合がよく感じる部分がちょっとありました。

具体的にはやはりネタバレになってしまうのでここには書けません。

後半のネタバレありの部分で僕の感想を書くので、すでに観ている方はそちらも読んでいただければと思います。

ネタバレなしのまとめ

以上、ネタバレにならない範囲の感想レビューでした。

まとめると、

  • 『そして誰もいなくなった』的なストーリー
  • 予期せぬ展開が面白い

この2つが見どころです。

殺人ミステリーとして非常に面白い部類だと思います。

90分と長くはない映画なので、気軽に観ていただければと思います。おすすめ。

ネタバレありの感想・考察

注意

以下の感想・考察はネタバレを含みます。ご注意ください。

ストーリー終盤の解釈

ここからはネタバレありということで、ストーリーの肝を僕なりにまとめてみたいと思います。

まず前提として、本作には2種類のシーンがあります。

死刑囚マルコム・リバースの再審議シーンと、モーテルの連続殺人のシーンです。

 

マルコムは過去の殺人によって死刑が確定していました。

しかし死刑執行の前夜、急に再審議を行うことに。

マルコムは多重人格者で、人格を消していく治療を受けていました。

殺人を犯す危険な人格を消せば、マルコムは一応無害になります。

審議の内容としては、危険な人格が消えたのを確認して、死刑を中止に出来ないか、というものでした。

 

一方、モーテルのシーン。

これは現実ではなく、治療中のマルコムの頭の中の世界です。

そこに登場する11人の人物はみな、マルコムが持つ人格にあたります。

モーテルの世界で人物が死ぬと、その人格がマルコムからも消えるという設定でした。

 

元警官のエドは、一時的に現実の世界で意識を取り戻します。

彼は混乱しつつも「危険な人格を殺せば、本体(マルコム)の死刑を止められる」と理解しました。

 

モーテルでの殺人が続き、残ったのはエド(元警官)、ロード(警官)、パリス(売春婦)の3人。

パリスは車を調べていたとき、警官であるはずのロードが実は殺人犯であることを知ります。

エドもそれを知り、「危険な人格=ロード」が答えだと考えました。

エドは相打ちで死ぬことになりながらも、ロードを消すことに成功。

夜が明け、どしゃぶりだった雨も止みました。

1人生き残ったパリスはモーテルを去ります。

パリスは夢だった果樹園の経営を開始。

平和な日常を送っていたかに見えましたが、死んだはずの少年ティミーが現れます。

そこでパリスは、ティミーがモーテルでの連続殺人の犯人だと確信。

シーンとしては描かれませんが、パリスは殺されてしまいます。

 

一方、現実世界にて。

ロードの消滅で無害と見なされたマルコムは、死刑を免れて措置入院することになります。

病院へ向かう護送車の中で、彼は優しい笑みを浮かべていました。

しかし消えたかと思われたティミーの人格が突然現れ、同乗者を殺害。

映画はこのシーンで幕を閉じます。

巧みなどんでん返し

本作の面白い展開は、まさに上にまとめた部分だと思います。

確かに細かいツッコミどころはありつつも、非常に上手く作ってあると思いました。

思うに、特に面白いポイントは3つあります。

  1. モーテルは現実ではなかった
  2. ロードは警官ではなかった
  3. でもロード=犯人はミスリードだった

映画を観始めて、再審議とモーテルにどういう関係があるのか気になります。

再審議とモーテルのシーンが二人三脚で進み、終盤そのつながりが明らかに。

まずここが1つ目のどんでん返しポイントじゃないかと思います。

すると、モーテル周辺で起こっていたありえない出来事の説明もつくわけです。

囚人ロバートが逃げたかと思いきやまたモーテルに戻っていたり、死体がいきなり消えたり。

普通あり得ないことも、マルコムの頭の中でならあり得ます。

 

で、ウマいのがロード=犯人というミスリード。

ロードが警官ではないと分かった時点で視聴者側も「ロードが危険な人格だったのか」と思うわけです。僕も思いました。

ロードが消えてハッピーエンドで終わるかと思いきや、そうはいきません。

消えたかと思われたティミーが犯人だと判明。

マルコムの凶暴性が蘇り、おそらくあの後脱走します。

死刑中止の判断も間違っていました。

 

この一連のどんでん返しは、勘のいい人なら途中で気づいたかもしれません。

というのも、映画の最序盤で既に「解離性人格障害」というワードが出ています。多重人格のことです。

僕はというと、初見では何も気づきませんでした。

モーテルは現実だと思っていましたし、ミスリードにも引っかかる…。

もちろんティミーが真犯人であるという結末も、最後まで行ってようやく分かりました。

まぁ、製作者側が意図したように楽しめたわけです。

 

後味の悪さをどう受け取るか

ここまで書いてきたように、本作のラストはバッドエンドです。

しかもハッピーエンドと見せかけた上で突き落とすという落差もあります。

もう一度まとめると、マルコムの危険な人格ティミーは消えていませんし、この後脱走にも成功するはずです。

この終わり方をどう受け取るかは人によって変わるところでしょう。

僕は、非常に不快に思いつつも、こんなのもアリかもしれない、と思いました。

 

僕は基本的に勧善懲悪が好きです。

できればマルコムには死刑になってほしかった、というのが正直なところ。

その一方で、あえてバッドエンドで終わるのも面白いと思います。

世の中の映画は、どちらかというとハッピーエンドの方が多い印象です。

犠牲を出しながらも悪を正す。

ただ現実はハッピーな話ばかりではないため、なんだかんだバッドエンドの話の方がリアリティを感じられることもあります。

 

そしてもう一つ、もしもこの映画がハッピーエンドで終わっていたら評価は変わっていたのでは、とも思います。

もしも本当にパリスだけが生き残って、マルコムは無害になり措置入院して暮らす、という結末だとしたら?

それもアリと言えばアリですが、どんでん返しが1つ減る分、パンチがなくなる感は否めません。

 

そう考えると、やっぱりバッドエンドで良かったんだ、と思います。

終盤のどんでん返しからの印象的なバッドエンド。

これが本作の肝ではないでしょうか。

ツッコミどころ

観ていて不思議に思った部分について。

一番「え?」と思ったのは、最後に精神科医が絞め殺されるシーン。

精神科医やマルコムが乗っていたのは、囚人移送用の車です。

なので運転席側とその後ろの境にはフェンスが設けられています。

マルコムの様子がおかしくなると、精神科医はわざわざ窓を開けてマルコムに話しかけます

それが原因で後ろからマルコムに後ろから絞め殺されることに。

つまり、もしも窓を開けていなかったら精神科医は(少なくとも簡単には)殺されていなかったというわけです。

普通にフェンス越しに見て話しかければ良かったのに…と思いました。めちゃくちゃ細かいことですが。

僕は基本的に味方(あるいは無罪の)キャラクターには死んでほしくないので、もどかしく感じてしまいました。

まぁここは都合上仕方ない部分ということで…。

「罪の自覚がない者は死刑にできない」

これまで散々書いてきたとおり、本作はミステリーが面白い作品です。

一方で、精神病と法律も小さいながらテーマになっているかなと思います。

再審議のシーンで、

「罪の自覚がない者は死刑にできない」

というセリフが出てきました。

僕はアメリカの法律のことは何一つ知りませんが、たぶん実際にそういうふうになっているんだと思います。

日本でも、心神喪失の場合は刑事罰の対象にならない、というケースを目にします。

 

僕はこういったテーマについて特に意見を持っているわけではありません。

ただ本作のバッドエンドを観ると、

「罪の自覚がなくても死刑にできる」

方に傾いてしまうというのが正直なところです。

こう思うのは僕だけでしょうか。

もし僕が製作者と話ができるならば、この点について何かメッセージはあるのか、ぜひ聞いてみたいです。

おわり

以上、映画『アイデンティティー』の感想レビューでした。

もう一度まとめると、ミスリード・どんでん返しが非常に面白い作品です。

一見すると海外ミステリ小説のようですが、それだけで終わりません。

どんでん返し特化の映画かと思いきや、個人的には考察ポイントも色々ありました。